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「…、明日は…、居るよ」
「…ほんと?」
「仕事が終わったら、真っ直ぐ帰って来るから」
「雫が…、怒る」
お前と居たい。なんて、言えない。
軽々しい言葉を忘れさせた、あどけない視線。
そこに不器用な笑みを乗せたら、彼女は子供のような笑顔を咲かすのだ。
そして彼は学習する。正解を知り、それが嬉しくて、つい。優しくしてしまう。
もっと知りたい、だなんて、在り来たりな感情に浮かされるばかりで。
「隼人?」
「何よ?」
「眠気…覚めちゃった」
「俺は…、」
起き上がったかと思えば、首を傾げ、紅眼を凝視。
ん? と、微笑を浮かべる彼女に惹かれて、青に吸い込まれそうになる。
睡魔なんか簡単に殺せる。彼女の為なら、彼女と居る為なら、何も要らない。と、握った手。
「眠いの?」
「全然」
「……、じゃあ、いっぱい、いっぱい。隼人とお話、したいな…」
恥ずかしいのか、それとも、何かに怯えているのか。目をぎゅっと瞑り、あどけない言葉を並べる。握られた手から伝わる、彼女の必死さに、彼の顔が綻んだ。
「仕方ねぇな、餓鬼」
意地悪い返しのついでに、引いた手。
彼女の身体はまた、彼の腕中にすっぽり。収められてしまい。
「何話そう?」
「自分で言っておいて…」
「たはは…、…楽しい話がいいかな?」
「…いいよ、何でも。聞いてやる」
本当に、何でも良かった。彼女だけが此処に、傍に居てくれるのなら――そう溢してかるのような表情と、抱擁。
理性を消して律動を繰り返すだけの行為。身体から熱が逃げれば、残るものは後始末。面倒くさいばかり。充足感なんて皆無で、時が過ぎれば正に空虚。
けれど、こんな些細な触れ合いで、明日が近くに感じられる。今日が刻める。
そんな人間らしい感情、教えてくれるのは彼女だけで、それをありのままと言う形、日常にしたい。
そして彼女も。思うことは違えど、似たような蟠りを抱えているに違いない。
刻々と過ぎる時間。距離は極めて近いようで、遠い。彼と彼女の人間らしい感情が実を結び、花を咲かす日はいつの日か。
to be continued...
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