純粋な芽の伸ばし方

3/4
前へ
/4ページ
次へ
「起きろ、白夜」 「…、……」 「起きろって」 解っているのに。今となっては、目の前に横たわる少女が寝起きに弱く、揺さぶりだけじゃ起きる訳がない。と。 安心感や信頼感があるからこそ、自分が帰宅しても目を開けない。 それが嬉しいと思う傍ら、寂しい、構ってほしい、だなんて私意。口に出しては言えないから、もどかしい。どうしようもない。 もぞり、布団を共に被り、少女の頭を抱く。 少女、なんて。彼女は中身ばかりじゃなく、身体も徐々に、そして確実に。女に成長してる。 だから、いつの間にか、視線を逸らす事が敵わなくなった。全てに触れたい、全てを刻みたい、埋め尽くしたい、満たしたい、満たされたい。 それが叶わないから、叶えられないから、他の女で――…至極、虚しい行為。 「ん…、はや、と…?」 「…、おう」 「……、お帰り…」 抱き返してくるなんて、幸せそうな顔して胸に顔を埋めるなんて、余りにも無防備だ。 自分にしか見せない姿、他には有り得ないありのままの姿。少女を託して来た悪友には、決して見せなかったであろう子供らしさ。 今の彼はそれが幸せに直結する。少女に…、彼女に、感情を埋め尽くされてしまったから。 芽生えた、咲いた愛情を、上手く言葉に出来ない。それは、きっと互いに。 「ねえ…、隼人」 「あん?」 「…………、」 「どうした?」 らしくない、温厚に浸った声。背中をゆっくりと擦る手に嫌悪感を覚えない理由を、彼女は解らずにいる。そして、彼に向かう感情すらも、恐らく上手くは理解出来ていない。 「寂し、かった…」 「……」 「っ、ごめん…」 「……、別に」 「ごめん、ねぇ…」 空気すらも湿らせた涙声。服が濡れる感触に感情が引き摺られ、戸惑う。彼は愛情の触れ合わせ方なんて、知る由も無かったから。 それでも、不器用に、言葉なくして抱き締める。 探り探り、頭を撫で、頬を寄せる。 誤魔化し方は知り尽くしているけれど、愛し方は知らない。だから、不安になる。 これは果たして正解なのか、と。
/4ページ

最初のコメントを投稿しよう!

5人が本棚に入れています
本棚に追加