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「起きろ、白夜」
「…、……」
「起きろって」
解っているのに。今となっては、目の前に横たわる少女が寝起きに弱く、揺さぶりだけじゃ起きる訳がない。と。
安心感や信頼感があるからこそ、自分が帰宅しても目を開けない。
それが嬉しいと思う傍ら、寂しい、構ってほしい、だなんて私意。口に出しては言えないから、もどかしい。どうしようもない。
もぞり、布団を共に被り、少女の頭を抱く。
少女、なんて。彼女は中身ばかりじゃなく、身体も徐々に、そして確実に。女に成長してる。
だから、いつの間にか、視線を逸らす事が敵わなくなった。全てに触れたい、全てを刻みたい、埋め尽くしたい、満たしたい、満たされたい。
それが叶わないから、叶えられないから、他の女で――…至極、虚しい行為。
「ん…、はや、と…?」
「…、おう」
「……、お帰り…」
抱き返してくるなんて、幸せそうな顔して胸に顔を埋めるなんて、余りにも無防備だ。
自分にしか見せない姿、他には有り得ないありのままの姿。少女を託して来た悪友には、決して見せなかったであろう子供らしさ。
今の彼はそれが幸せに直結する。少女に…、彼女に、感情を埋め尽くされてしまったから。
芽生えた、咲いた愛情を、上手く言葉に出来ない。それは、きっと互いに。
「ねえ…、隼人」
「あん?」
「…………、」
「どうした?」
らしくない、温厚に浸った声。背中をゆっくりと擦る手に嫌悪感を覚えない理由を、彼女は解らずにいる。そして、彼に向かう感情すらも、恐らく上手くは理解出来ていない。
「寂し、かった…」
「……」
「っ、ごめん…」
「……、別に」
「ごめん、ねぇ…」
空気すらも湿らせた涙声。服が濡れる感触に感情が引き摺られ、戸惑う。彼は愛情の触れ合わせ方なんて、知る由も無かったから。
それでも、不器用に、言葉なくして抱き締める。
探り探り、頭を撫で、頬を寄せる。
誤魔化し方は知り尽くしているけれど、愛し方は知らない。だから、不安になる。
これは果たして正解なのか、と。
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