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「北の方も御一緒なのですよね。ご挨拶したいのですが、お姉様…お母上にお取次ぎしてはいただけませぬか?」
千寿丸は稚児輪の頭を傾けて、悲しそうに言った。
それは無理というもの。
そもそも、ここの尼寺に来たのは父上が贔屓して、一人息子を東宮御所に紹介したのを母上が妬んだから。
そう説明できればいいのだが。
千寿丸のわざとらしいまでに悲しい表情から、心のうちをくみ取らない訳には行かない。
「千寿丸。母上への思いは仏様がきっと伝えてくださるわ」
この場面ならば、こう言うのが最適。
大した意味もないのだ。
時候の挨拶程度。
それが社交辞令ってものだろう。
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