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寺の尼どのたちも、大納言家の北の方と思えばこそ、母の愚痴に付き合っているのだ。
「あーっ!もう限界っ!」
万結姫は母上が昼寝をした隙に宿房を飛び出した。
袿の裾を細帯に挟み込み、沓を突っ掛け、寺の庭を徘徊していたはずが、いつの間にか沢に降りてきていた。
清水が勢いよく岩に跳ねて、真珠のように輝く。
ほうっと息を整えると、万結姫は、ホッコリと日向の陽を浴びている心地よさそうな苔の上に腰かけた。
「いい気持ち…お菓子食べちゃお」
小袖の中から、紙に包んだ果物を干した菓子を出した。
その時、背後の樹から鳥が突然飛び立ち、驚いた万結姫は菓子を取り落とした。
コロコロ……と転がった金柑が、スポッと岩の合間に消えた。
「あーあ……金柑。最後の一個だったのにぃ」
なんとか取れないかと、岩の合間を覗きこんだ万結姫は悲鳴を上げた。
小人だ。
手のひらに乗るくらいの小さな小さな人が。
たった今、万結姫が落とした金柑にかぶりついていたのだ。
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