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今東宮様と千寿丸は手を取り合って泣いている……二人の見た目がまあまあ美しいので許せるが、昼日中から部屋に籠もってメソメソしている。その有様にはため息しか出てこない。
袖口から顔を出した、ちいさな神さまが、ぐすっと鼻をすすり上げた。
「神さま……まさか、泣いてるの?なんで?」
万結姫のあきれ顔を見て、神さまは自分の顔を万結姫の袖口に、ちーんと押し当てた。顔の汚れと鼻水がべったりとくっついてしまった。
「ちよっとっ。わたしの袿で鼻水を拭かないでよねっ」
抗議したのだが、神さまは知らん顔でまたしてもちーんと鼻水を拭いた。
この袿は母上からのお下がりだったが、結構品物が良くて気に入っていたのだ。
汚れが落ちるかどうか。洗濯担当の下働きの下女からイヤミの一つでも言われるのに違いない。
「何とも悲しくも美しい心根ではないか。恋人の不実に苦しむ東宮と、それをなぐさめる術の無い稚児。この姿を見て、そちは何も感じぬと言うのか。なんとも色気の無い姫じゃな」
小さい神さまのくせに。もっともな事を言う。
万結姫は、気を取り直して咳払いをした。
「うーおほんっおほんっ」
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