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あ、そこに万結姫がいたよね……とでも言いたげに、今東宮様と千寿丸がしらけた顔になって互いを見た。
この主従は良く似ている。感情の起伏が激しくて、側にいたら疲れてしまう。こんな男の人と付き合ったら、大変だろうなあ。露羽という女官が今東宮様から、弟の二条の宮に乗り換えたのも無理はないかも。
そんな事を考えていたら、小さな神さまが、えっちらおっちら、万結姫の腕から膝、床へと降りたって、今東宮様の前に進み出た。本当なら立って歩いたりしたら無作法だから膝で少しずつにじり寄るんだけど。
元々が小さいんだから、構わないのかも。
「えええっ!ちょっと!小さい神さま、勝手に出てきたらダメでしょう!」
万結姫が几帳の後ろから転がり出たのと、同時に今東宮さまが悲鳴をあげた。
「ぎやあああ…っ」
白粉を塗った顔が引きつったかと思うと、パタリと倒れてしまった。
「今東宮よ、どうしたのじゃ?」
小さい神さまは、今東宮様のお顔の辺りをつついている。
「ああっ!東宮様、お気を確かに……志津殿!お近くにおられますか!」
千寿丸が大声を上げると、廊下側の御簾を、さらりと上げて、のっしのっしと、巨体の女房が入ってきた。
この志津という女房。背丈も大きく御簾を潜るのに背中を丸めなくてはならないほど。横にも太くて、濃き色の袴の紐の長さが足りなくて、正面の結び目がちょっとしか垂れてない。
だが巨体に似合わず、眼光は鋭い。
千寿丸が真っ先に呼んだ以上、この女房が東宮御所の頭に違いない。
志津は大きな目玉を、ぎろりと万結姫に向けた。
怖い………怖すぎるっ!
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