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「ほほう、これは麗しい女房どの。この小さき姿でなければ、そなたを嫁にもらいうけたかったわい」
くにゃりと、志津の背中がもじもじし始めた。
志津の後ろから顔を出した万結姫は、小さい神さまが、気を失って大の字に倒れている東宮様の腹の上に立っているのをみて、頭痛がしてきた。
「いやいや、その麗しい声は天女も恥じ入るであろう。可愛いひとよ、今一度、その声を聞かせておくれ」
「まあ、そんな。お恥ずかしゅうござりますわ」
「おお、何という可愛い声だ。今生の願いであるぞ、名前を教えてたもれ」
「はあ、志津ともうします」
小さい神さまの目線からは、志津の声しか聞こえないのだろう。
だからと言って、初対面の相手を褒めちぎるとは、何とも恥ずかしい。
しかし、志津はまんざらでもなさそうで、怖い女房だとおもったが、案外若いのかもしれなかった。
恐らく、東宮様の乳姉弟。
それにしても、東宮御所は人材が多様だ。
こういう職場って面白そう…。
千寿丸の事が、少し羨ましくなってきた。結婚しても通い婚だから屋敷からは出られない。
同じ顔ぶれの使用人に囲まれた生活も、最近、つまらないのだ。
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