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「ところで今東宮は悩み事があるそうじゃな」
小さい神さまが東宮様のお腹の上にちょこんと座った。
志津が座ると、ばふっと、風圧がきて万結姫は床に転がりそうになった。
「そうなのでございます。露羽という女官が、弟君の二条の宮と恋仲になったのです。本当に不実な女でございますよ」
志津の目元がぎりっと強い怒りを込めて細くなった。その眼光たるや……ごくっとツバを飲み込んだのは、万結姫だけではなかった。東宮様も、薄目を開けてそーっとこちらの様子を伺っているでは無いか。
「大体、東宮様には妃もおられます。まだお子に恵まれないのがご不安なのは分りますが、露羽ひとりにお情けをかけ続ければ東宮御所の規範が乱れます故。東宮様には今一人、出自正しきお家柄から妃を迎えて頂いてはどうかと、家令と相談しておりました矢先……」
そう言うと、志津はぐるっと巨体をひねって、がばっと万結姫に顔を近づけた。
「ほんにまあ。可愛らしいお姫様でござりますこと。大納言家の総領姫でお母上も堂上家の出身。弟御は東宮様の侍従とは、申し分ない」
このままでは、食べられる。
そんな身の危険を感じた……万結姫はまた、ごくっと唾を飲み込んだ。
横目で志津を見ると、万結姫を捕らえんばかりに鼻息を荒くしているし、東宮様も薄目を開けてこちらを見ている。
嫌だ……こんな怖い人たちと縁を結ぶなんて、絶対嫌っ。
そう思った時、千寿丸が大慌てで戻ってきた。
「東宮様っ露羽さまから使いの者が参っておりますっ」
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