壱。恋の季節なりけり

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「はっくしょん……もう、そんなにかじったんなら返せとか言わないから。じゃあねっ」 汚い小人から一刻も早く離れようと、万結姫が体を起こそうとしたとき、小人がふむ、と考え込んだ。 「そうじゃの。ほれ、そちの願いをひとつ叶えてやらんでもない。言うてみい」 草子の展開なら王道とでもいうべきだろう。 森で遭遇した怪しい小人が、一片のお菓子の礼にと望みを叶えてくれる。 草子の作者は単に事実を書いたのみで、創作意欲も無かったのかと万結姫は、がっくりと肩を落とした。 「悩んでおるのか。そうであろう、人の分際で神の業を受けられるとあっては戸惑っても無理は無い」 「あー……じゃあ。くしゅっくしゅっ。このくしゃみを止めてっ」 「ほうほう。悩んだだけあるでは無いか。良い願い事じゃ。ムニャムニャムニャ……はあっ!」 何分、体が小さいのでムニャムニャムニャー……の所は呪文らしいという事くらいしか伝わらなかったが。最後の気合いはしっかり聞こえた。 「どうであるか?」 「とまった……」
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