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「なるほど。では縁を結んでやろう」
小袖からひょいと体を乗り出した神さまは、身軽に地面に降り立つと寺参りの興奮でゴタゴタしている宿房に向かって、ひらひらと手を振った。
「これ。そこの女房よ。御簾うちの若者に取り次くのじゃ」
「あらあ?誰かわたくしに話しかけた?」
「いいえ、誰もお声をかけたりしていませんわよ」
美しい女房達が顔を見合わせているではないか。
万結姫はさらに声を張り上げようとしている神さまを引っ付かんだ。
「こりゃ、離さんか。そなたが申したのじゃぞ。そこの若者と結婚するとな」
「そうだけどっ!もっとやり方があるでしょうっ!」
小袖の中に神さまを再び押し込んで、女房達に見つからないように忍び足で立ち去ろうとした。
「万結姫ではありませんか?」
一番会いたくない者に最悪の場面で会ってしまった…これは、怪しい神さまを拾ってしまったからではないのか?!
顔に笑顔を張り付けて、万結姫は振り返った。
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