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薬指のスピカなんて、捨ててしまえ!
付き合って三年目の彼がくれた指輪には、星屑の欠片のような青色の宝石が埋め込まれていた。
夜空に翳すと電灯の光を反射して、一等星みたいにキラリと輝く石を冠するこの指輪は、一目見たときから私のお気に入りになった。
私もそろそろ結婚適齢期。いずれは彼と結婚するのだと疑いもなく思っていた。
──彼が二十歳の女子大生と浮気していると知らなければ。
どうやって浮気がバレたのかって?
別になんということはない。
彼が席を外している間に、彼のスマホが聞き覚えのない女からのメッセージを通知したのだ。
うかつにも、送信先の女子大生の名前表示をちゃん付けにしたあげくハートマークまで前後に付けるという、スイーツな女子もびっくりな馬鹿だったおかげで、事件は迷宮入りせずスピード解決した。
容疑者は取り調べに応じ、罪を認め被告人となったにも関わらず、関係の再構築を主張した。
刑事兼検事兼裁判長の私は、要求を棄却し、判決を言い渡した。
「誰があんたみたいな浮気者とヨリを戻すかっての! 冗談じゃない!」
私はそのセリフを置き土産に、彼からもらった指輪を手の中に握り込むと、顔面グーパンの刑を執行した。
右ストレートで真っすぐいってぶっ飛ばした結果、被告は派手な音を立てて地面に倒れた。
ついでに彼のスマホを拾い、女子大生と末永くお付き合いできるように、彼の恥ずべきエピソードや画像をこれでもかと彼女へ送信しておく。
やはり恋愛は、格好良い部分だけじゃなくて、弱い部分も知ってこそ。
これで二人の絆はさらに深まるに違いない。
大丈夫だいじょーぶ、きっと受け入れてくれるって。本当に愛してるならね。
「おっと、忘れてた。これ返すね」
動かなくなった彼の体の上めがけ、握り込んでいた指輪を親指でピンと弾く。
指輪は青い流星のように綺麗な放物線を描いて、見事目標の上に着地した。
──ああ、スッキリした。
晴れ渡った青空のように爽快な気分で、私はその場を去った。
彼がその後どうなったかって? 知らないし興味もない。
が、共通の友人が後に語ってくれたところによると、なんと女子大生にも振られてしまったそうだ。
二人の後押しをした身としては、実に悲しい話である。合掌。
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