趣味

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朝5時半になると、スマホのアラームがみゆきを起こす。 「んん……、もう朝か……」 みゆきはアラームを止めると、パジャマのまま、外に出る。夏の朝特有の空気を吸い込んで体内の換気をすると、目的地である自宅の郵便受け前に立つ。 「お、来てる来てる」 みゆきは郵便受けから新聞を抜き取ると、鼻歌交じりで自宅内に戻り、台所でハーブティを淹れる。 みゆきはどこにでもいる27歳のOLだ。特に恋人や友達も作らず、自宅と会社を行き来するだけの人生を過ごしている。そんな彼女の趣味といえば、新聞のお悔やみ一覧を眺め、名前、年齢、性別からその人の人生を想像し、小説を書くことだ。 不謹慎極まりない趣味だが、誰も知らないため、咎める者はいない。 「太田とみさん、93歳……。長生きしたねー。この歳だと、戦争経験者かな?」 みゆきは指先でそっと年齢をなぞる。みゆきの太平洋戦争に関する知識はとても乏しく、遠い昔に日本で起きた戦争、ということしか知らない。もっと言えば大正に起きたのか、昭和に起きたのかすら分からない。 それでも激動の時代を生き抜き、こうして平成まで生き残った人々への賞賛と興味はある。どれほど凄まじい時代だったのか、戦争後はどんな生活を送ったのか、最期はどんな思いだったのか……。 「93年か……、途方もないね。ひ孫とか、いるのかな?」 みゆきは他の名前に指先を動かした。 「武田権蔵、54歳。年齢と名前的に、油っこいものの食べ過ぎで生活習慣病になり、って感じする」 そう言いながら彼女が思い浮かべるのは、禿げあがった頭で、タプタプに太った中年男性。 「ん? これは……」 みゆきを惹き付ける名前があった。
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