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「わたしね、木になるの」と年端もいかない、髪の長い病衣の少女はいいました。
「それはコマーシャルのオマージュかい?」とスーツを着た青年は訊きました。
「違うよ。そういう病気なの」
「木になる病なんて、聞いたことないけれど」
「でしょう? どうやら人類史上、わたしが初めてらしいの」
なぜか少し誇らしげに少女はいいました。
「だとしたら、冗談みたいな病気だね」
「そう思うのはしかたないわ。でも、ほら。見て」
そういって、少女は病衣の袖を捲りました。
手首から先は変哲ない、普通の女の子らしい丸みを帯びたそれです。
しかし、肘の辺りに青年の視線が向けられます。
まだ五百円玉くらいの大きさですが、木の節目のような模様が少女の肘にはありました。
それに模様だけではありません。
乾燥だけでは説明がつかない、まるで木乃伊のような水分の枯渇も見受けられました。
「文字通り、木乃伊みたいになってるでしょ」
「本当だ。よくできた特殊メイクだね」
「もう。本当だっていってるのに」少女はあざとく頬を膨らませました。「何だったら触ってみて」
促され、青年は少女の患部に恐る恐る触れます。
カサッと、枯れ葉に触ったときと似た感触が指先から伝わりました。
「最近の特殊メイクは触ってもわからないらしいよ。それこそ、映画みたいにマスクを剥がない限り」
「お兄さん、友達すくないでしょ」
「よくわかったね。君の言う通り、僕に友達は一人としていないんだ」
「かわいそう」
「独りは楽だよ」
「それって、孤独な人が寂しいと口にする科白だと思う」
「どうだろうね。ずっと独りだから、寂しいなんて感覚、わからないんだ。あるいは忘れた」
「じゃあ、私がお兄さんの友達第一号になってあげる」
「それは名誉なことなのかい?」
「当然。だって、人類史上初めて木になる女の子の友達なんだから」
「そうか。じゃあ今のうちにサインをもらっておこう」
そうして青年と少女は友達になりました。
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