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それからも青年は少女の入院する病院へ足繁く通いました。
幸いにも青年は失業中なので、時間は余るほどありました。
青年は、しかし少女の木に変化するという病をまだ信じていませんでした。
なので、時間が立てば少女の嘘が露見するだろうと思い、意地悪的に面会を重ねます。
「やあ」と青年は中庭のベンチに腰掛ける少女に声をかけます。
「やあやあ、お兄さん。毎日会いに来てくれて嬉しいな」
「友達だからね」
「友達でも毎日お見舞いに来てくれる人はいないよ。それこそ、親だって来てくれない」
「君のご両親はお見舞いに来ないのかい?」
「だって、わたしの親はわたしを見るのが悲しいからって、見舞いを避けているんだもの」
「微妙なご両親だね」
「ほんと。見放すなら早く見放してくれたほうが、わたしも楽なのに」
「悲しくはないの?」
「まだ愛されているから」
「なるほど。じゃあ、いいご両親だ」
「なら毎日に会いに来てくれるお兄さんは家族以上かしら」
「家族以上って?」
「伴侶?」と少女は可愛らしく首を傾げました。
「伴侶?」と青年は訊き返しました。
「ええ、伴侶」
「恋人という過程はないのかい」
「だって、恋人もこんなに会いに来てはくれないもの」
「そうなのか?」
「お兄さん、実は恋もしたことないでしょ」
「よくわかったね」
「じゃあ、お兄さんはわたしの恋人にしてあげましょう」
「それは名誉なことなのかい?」
「とっても。だって人類史上初めて木になる女の子の恋人なんだから」
「なるほど。じゃあ恋人になってください」
「はい」
少女は仄かに頬を赤らめていました。
青年は、しかしただ笑っているだけでした。
そう、彼はまだ少女を疑っているのです。
恋人を疑うというのは、珍しくはないでしょう。
そうして、二人は恋人になりました。
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