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なにか習慣があると、季節の移り変わりというのは早く感じられるものです。
青年が少女のもとに通い始めて、半年が経ちました。
少女と青年が初めて会ったのは春だったので、今は秋です。
秋といっても、冬に近い秋なので、晩秋と呼ぶのが適切でしょう。
半年間、少女の病を偽りだと思ってきた青年ですが、ここにきてそれが少しずつ揺るぎ始めます。
「お兄さん、見て、見て」
青年は少女に会うなり、少女にそういわれました。
そして少女は病衣の裾をまくりました。
なんということでしょう、少女の左足がまるで木の根っこのような形状をしているのです。
根が絡み合い、人の脚を模倣しているようでもありました。
それを目にした瞬間、青年は思わず息を呑みました。
「どう? お兄さん。やっと信じてくれた?」
「まさか」
青年はおどけて見せましたが、内心はバクバクです。
今までは特殊メイクだと疑ってきましたが、ここまで来るとそれだけでは説明がつかない気がします。
それに左足だけではありません。
以前に見せてくれた少女の肘の模様は、もう少女の両腕を覆ってました。
「お兄さんは頑なね」
「そうかな?」
「でも頑なな人って、わたし、好き」
「恋人なんだから、好きでいてくれなきゃ困るよ」
「なら、お兄さんはわたしのこと、好き?」
青年は一拍の間、言葉に詰まります。
「ああ、好きだよ」
「ほんとう?」少女は目を輝かせています。「ほんとのほんとに?」
「本当だよ」
「じゃあ、じゃあ」
少女はベンチから立ち上がって、座ったままの青年の前に立ちます。
「キス、しようよ?」
とはいったものの、少女のそれは確認ではなく、あくまで宣言でした。
有無を言わさず、少女は青年の両頬に手を添えます。
青年は心の準備もできず、ただ目を閉じて唇をきゅっと閉じました。
ですが、数秒経っても青年の口には何の感触もありません。
青年が薄っすらと瞼を開けると、そこにはほくそ笑んでいる少女の顔がありました。
「すると思った? お兄さん、えっちね」
「君ね、」
青年が文句を言ってやろうとした瞬間でした。
青年がばっちり目を開いている時を狙って、少女は唇を重ねてきたのです。
五秒ほど、青年の時間は止まっていました。
ようやく唇を離した少女の目元と頬は見るからに上気していました。
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