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結婚式
「へぇ、この人が、美織の新しい彼氏なんだぁって思いました」
その一言が、違和感の始まりだった。
だって結婚式のスピーチである。
小春日和の一軒家レストラン。私は職場の後輩の結婚式に参列していた。いや、正確には、結婚式は先程隣のチャペルで行われ、今は披露宴の最中だ。
後輩の渡辺は、光沢のあるグレーのフロックコートを着て、美しい花嫁の隣で微笑んでいる。
マイクを持つのは、司会から「ご新婦さまの高校時代からのご友人」と紹介された、ぽっちゃりとした若い女性だった。
みんなその言葉が気にならないのだろうか。
あからさまにキョロキョロするわけにはいかないが、見える範囲で見渡すと、招待客たちは一様に微笑みを浮かべて彼女の話に耳を傾けていた。
紅く光る口唇をきれいな弓形にしならせ、花嫁も微笑みながら聞いている。
はじめ私は、友人代表の彼女が実は新婦に悪意を抱えていて、それをこの晴れの日にさりげなく漏らしているのかと訝った。
ウェディングのスタッフは、自分たちと新郎新婦が準備するものには厳しい目を光らせただろう。
私自身の結婚式のとき、両親への感謝の手紙の内容まで添削されたのに驚いた。彼らは「お聞きになったお客さまのどなたかが不快に思われる可能性がある」言い回しを、プロの目で排除する。
それでも、来賓のスピーチまでは事前にチェックできない。
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