エール

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エール

 私たちは、レストラン近くの公園に集まった。  レンタル衣装の渡辺と、30代なのに年長扱いされた私はベンチに。他の者達はスーツの尻が汚れるのも厭わず、土や芝生の地面に車座に腰を下ろす。  みんな、晴れ晴れとした顔だった。渡辺も既に悩みは晴れたのか、作り物でない笑顔を浮かべている。 「みなさん、今日はありがとうございました」  渡辺が立ち上がって頭を下げた。 「いやぁ、ある意味貴重な経験だったわ」  夏目がニヤニヤ笑いながら答える。 「夕森さんなんか、途中からめっちゃ青筋ピクピクさしてさぁ。渡辺が叫んだ時、水を得た魚って感じでノリノリに続くから、マジ笑い堪えたわ」 「お前に言われたくないよ。一番ノッてたのはお前だろ。得意のバク宙、披露できなくて残念だったな」  言葉は乱暴だが、試合を終えたチームメイトのような暖かい連帯感に、仲間の顔がほころぶ。 「孝太郎も、ありがとう」  渡辺が目を細めると、弟はふてくされたようにまだ幼い唇を尖らせた。 「俺だってすごい堪えたよ、いろんな意味で。でも、兄貴が自分でぶっ壊してくれて、よかった……」 「これからが大変だけどな」  そう言って苦笑しながらも、渡辺の顔は晴れやかだ。  現実はドラマのようにいかない。  渡辺にも花嫁にもこれからの人生があり、私たちとてこの後、荷物を取りにレストランには戻らなければならないのだ。  どんな「その後」が待ち受けているのか、想像するだけで恐ろしい。  でも。  人生はその後もずっと続いていく。  渡辺が、これからの人生をあんな女性とともに過ごすことにならなくてよかった。これでよかったのかと自問しながら、愛されない日々に神経をすり減らす人生にならなくてよかった。  私は隣に座る渡辺の横顔を見た。  彼はまだ若い。これからもたくさんの出会いと別れがあるだろう。あんな女性より、もっとふさわしい相手に、きっと出会えるはずだ。  渡辺のこれからの人生が、幸せなものであるように。  私はその大きな背中に、バンと一発、手のひらで活を入れた。 【了】
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