4  紀子の病室にて

1/1
21人が本棚に入れています
本棚に追加
/52ページ

4  紀子の病室にて

 「先生、妻は大丈夫でしょうか?」と私が、医師に尋ねると、  「奥様は大丈夫ですよ。ただ、お腹の赤ちゃんは、残念ながら…」  と医師は言葉を詰まらせた。  「冗談は、よしてください!」と私が言うと、  「正直に申し上げます。残念ですが、奥様は流産されました」と医師は伝えた。  「...............」悔し涙しか出なかった。   私は、妻の病室へ戻った。   紀子が、一時間後に目を覚ますと、  「紀子、痛みはないか?」と私が聞くと、  「ええ、私は大丈夫よ。私のことより、お腹の赤ちゃんを見てもらってほしいの」 と紀子は言った。    「もう見てもらったよ」と私が言うと、    「大丈夫だよね?」と紀子が明るく言ったため、  「紀子、許してくれ...........俺が旅行へ行こうと言ったばかりに」   「嘘でしょ!嘘に決まっている..........私の赤ちゃんを返して!」 と紀子は泣き叫んだ。   一ヶ月後に、紀子は退院をしたが、以前のような彼女の明るさに戻るのには、長い年月が必要であった。   
/52ページ

最初のコメントを投稿しよう!