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ーー
その日は蒸し風呂みたいな暑さだった。
真夜中の山中。俺はワタルを後ろに乗せてバイクを走らせた。まとわりつく湿気を帯びた風。吹き切るようにスロットルを開くと加速した。
数刻前、友達のワタルが心霊スポットへ行こうと言い出した。居酒屋でワタルと飲んでいた俺は訊いた。
「いいけど、どこ行くんだよ」
ワタルが含み笑いを浮かべる。
「この間、先輩から聞いたんだ。松ヶ野峠を抜けた山奥の田舎に廃病院があるらしい」
「廃病院……聞いたことないけど。それに松ヶ野峠って、ここから結構遠いぜ?」
「どうせ明日講義ねぇだろ。行こうぜ。それとも直樹、まさか飲酒運転で捕まるのビビってんのか?」
「そんなわけねぇだろ」
「いや、ビビってんだろ?」
「うるせぇ……行きゃいいんだろ」
残っていたビールを飲み干すと店を出た。
明日は大学の講義もない。このまま帰ってもどうせ寝るだけだから暇潰しくらいにはなるだろうと思った。
ーーブォン。低音の太いエンジン音が鳴りひびく。
都内から離れた山の中にある廃墟まではバイクで一時間ほどだった。時刻は深夜一時半。山道は比較的幅があり舗装もされていたが、車とすれ違うことはなかった。
しばらく道なりに進んでいくと、真っ黒な木々の切れ間から建物らしきものが見えてくる。
前を向いたまま、
「あれ?」
と声を張り上げると、
「あれあれ」
返事が返ってきた。
さらに進んでいく。建物の駐車場らしき場所が視界に入った。山道から外れて速度を落としていく。ひらけたところにバイクを停めると、建物があるほうを見た。
山の中に隠れるようにして建てられた廃墟。だが、ここからでは黒い塊にしか見えない。
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