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「以前は精神病院だったらしいぜ」
振り返ると、ワタルはヘルメットを脱いでいるところだった。俺も同じようにヘルメットを脱ぐ。息苦しさからすこし解放された。けれど、蒸し暑いことに変わりはない。
不快さに苛立ちを覚えながら、
「こんな山奥に病院なんてあんのかよ」
吐き捨てるように言った。
「直樹知らねーの? 精神病院は人目を避けて山の中につくることが多いんだぜ? なんせ患者が患者だから」
「あぁ、そっか」
「ちなみに中へは入れねぇらしい」
その言葉に眉をひそめた。
「はぁ? なんだよそれ。心霊スポットへ行くって言ったからてっきり俺は……」
「まぁ、いいじゃねぇか」
俺が言い切る前に喋るワタル。ヘルメットを置くと、天然パーマの頭をぐしゃぐしゃと掻きながら続けた。
「もしかしたら、入れそうなところが見つかるかもしれねぇし。周りを散策するだけでも結構雰囲気楽しめるぜ? そうそう。聞いた話じゃ、三階の窓に幽霊が立っているのを見たって奴がいるらしい。そのあと、そいつ死んだらしい」
「はぁ?」
「取り憑かれてきっとイかれたんだな」
「ほんとかよ。なんかありきたりな話だな。てか、そもそも外から眺めるだけで取り憑かれるって何だよ」
肩をすくめる。
「いや、噂によるとそいつは建物の中へ入ったらしいぜ?」
「入り口ねぇのに、どっから入るんだよ。辻褄合わねぇじゃん」
ワタルが見透かしたようにケラケラと笑った。
「それが心霊スポットの醍醐味だろ。話のほとんどがデタラメってやつ」
「そうだよな」
「つーわけで、ダメもとで入り口探してみようぜ」
声の調子からすると随分と楽しそうだ。
こんな蒸し暑いのに物好きな奴だ。だが、嫌いじゃない。楽観的でいつも笑っている。そういう部分に惹かれたりする。
「たく、仕方ねぇなぁ」
携帯のライトをオンにした。ワタルも同じようにそうする。ふたつの光が暗闇を照らした。
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