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 ピッピ。腕時計が鳴った。  時刻は深夜二時。  黒々と闇に包まれた廃墟へ近づくためには、バイクを停めた場所から金網を抜けて、すこし歩く必要があった。  生い茂る雑草。足を踏み出すたびに、草がガサガサと鳴った。舗装されていない地面は、雑草が腰のあたりまで伸びており、腕に掠るたび痛痒かった。 「さすが山の中、暗ぇ??」  と暗闇に向かってワタルが叫ぶ。 「あたりまえだろ」  と俺。  目の前のひときわ伸びた雑草を払った。  弱々しい光。携帯のライトは心もとなかった。足元の数歩先までしか見えず、穴があったらそのまま落ちてしまうのではないかと怖かった。  それに加えこの暑さ。こめかみから首にかけて汗が垂れていくのをしきりに拭った。身体中が汗ばんでいる。そのせいで雑草が肌に触れるたび張り付いてきた。  至る所からきこえる虫の鳴き声。こんな蒸し暑い日に来るべきじゃなかった。すこし後悔した。  あるところで立ち止まる。  目の前には廃墟。  黒いだけだった建物が、ライトによりその姿をあらわした。  ヒビ割れ黒ずんだ壁。  絡みついたツタ。  掠れて読めなくなった案内板。  弱々しい光が極めて狭い範囲を照らす。  かつて精神病院だったという建物は近くで見ると、一層荒んでいた。異様な雰囲気を醸し出す廃墟。  ここへ来て、はじめて背すじがゾクッとした。 「……ボロボロだな」  そう漏らす俺に、 「そりゃそうだろ」  ワタルが突っ込む。 「……そうだよな」 「綺麗なほうが逆におかしいだろ」 「わかってるって。ただ、まじでボロいから言っただけだよ」  ため息まじりにそう漏らす。 「つか、ビール飲みすぎた」  とワタル。 「は?」 「直樹、ちょっとションベン」  軽い口調で言うと背を向けて今にも歩き出そうとする。  これからって時に、ワタルはタイミングが悪い。
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