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「なんで店で行っとかなかったんだよ」 「悪ぃ。ついでに気分悪ぃから吐いてくるわ」 「うげ、まじ勘弁しろって。頼むから遠くでやれよ」 「わかってるって」  横の茂みの中へ入っていくワタル。彼の姿は闇に吸い込まれるようにしてあっという間に見えなくなった。  取り残された俺。 「ったく、仕方ねぇなぁ」  確かに今日、ワタルは結構脂っこいものを食べていた。ついでにビール五杯。想像しただけで、俺も気分が悪くなってくる。 「バカみたいにこってり系いっぱい注文するから、無理して食うハメになるんだよ。まぁ、あいつらしいけど」  ふっと息を吐く。 「……あー、早く戻ってこねーかなー」  しばらく目を伏せたあと、顔を上げた。ただ立って待っているのも退屈だ。  携帯を持つ手を動かして、ライトをふたたび建物へ向けた。ひび割れた壁。そこからゆっくりと照らす位置を変えていく。  正面玄関、そして一階の窓。すべて木の板で窓を打ち付けてある。俺たちのように悪ふざけで侵入されることへの対策だろう。  ここから入るのは無理だろうな。  ライトを持つ腕を下ろすと、改めて廃墟を眺めた。灯りで照らさなければ、真っ黒な塊にしか見えない。  ……それにしても暗いな。  顔を上げた。空も山も境界線がわからないほど黒い。瞬きする。目を閉じていても開けていても、それは同じだった。あまりに暗すぎて、自分がどの景色を見ているのかわからなくなる。  ーー月はどこだ?  視線を変えていく。右後方に針金のような細い三日月を発見した。けれど、それを薄い雲がベールのように包み込んでいる。  どうりで暗いわけだ。  ふたたび目線は廃墟へ。  建物の屋上にある柵がぎりぎり目視で確認できた。そして、三階の窓も辛うじて見えた。けれど、それだけだった。窓というボンヤリとした輪郭が掴めただけで、やはり暗くてどうにも視界が悪い。  俺は何気なく、左端にある三階の窓を眺めた。板は打ち付けていないが、やはり暗くて何も見えない。
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