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それは、イタチだった。
……っ。
ライトを浴びた二つの眼球がこちらを睨みつける。すぐに顔を背けると駆けていった。
動けないまま、何もない雑草を照らす。
ドキンドキンと鳴り響く心拍音。
な、なんだよ。ビビらせやがって。
肩の力を抜いた。
「おい」
「うわっ」
飛び上がった身体。その勢いで思わず尻餅をつく。
振り返った。真後ろにワタルが立っていた。
無表情で俺を見下ろしている。
「どうしたんだよ」
「お、驚かせんな!」
痛いほどに強く打ち付ける心臓を押さえながら、思いきり睨んだ。けれど、ワタルは平然とした態度。いかにもワザとらしい。
「なんだよ。何もしてないだろ」
「何もしてないことはないだろ!」
鼓動が耳にまで届くほどに鳴っている。
これから廃墟へ入るって時に気配消して近づくのは反則だ。
「まさか怖いのか? まだ中にも入ってねぇんだぜ?」
ワタルが頬を歪ませた。尚も俺をイジってくる。
「そうだけど、こんだけ暗いとびっくりもするんだって」
「え、そんなに暗いか?」
「ワタルもそう言ってただろ?」
「そうだっけ。まぁいいや。早く行こうぜ」
ワタルが背を向けた。そこで彼が手ぶらであることに気づく。
「おい、ワタル携帯は?」
「携帯?」
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