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ざっざっと草を蹴るように足を踏み出す。
湿度が高いせいで、やたら息苦しい。鼻から入ってくる生々しい土や草の臭いに気分が悪くなってくる。帰ろうとワタルはなかなか言わない。
……何なんだよ。夢中になりすぎじゃねぇか? 早く帰りてぇ。
携帯で時刻を確認する。深夜二時半。入り口を探し始めて十分が経過していた。
げ、しかも……。
スマホの画面上方に表示された文字。
……圏外かよ。
携帯を持つ手に力を込める。
バイクを停めた場所で確認した時は、辛うじて電波が届いていた。
「…………」
わかっている。大した問題ではないし、きっと何もなく終わる。それでも、躊躇いを感じた。
いざという時の連絡手段に電話が使えない。それがやけに不安な気持ちにさせた。
こんなに暑苦しいのに、これ以上散策をつづける必要なんてない。そういう結論に達した俺は視線を上げた。
ワタルは少し離れたところにいた。
ーー帰ろうって言おう。
俺は口ごもりながらも、
「なぁ、もうやめようぜ」
そう言った。
反応を待つ。
だけど、返事がない。
「おい」
と、もう一度声をかけた。
真っ暗な暗闇の中に立ち、壁のほうを向いたまま動かないシルエット。
……どうしたんだ?
「ワタル?」
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