プロローグ

11/14
前へ
/19ページ
次へ
「そうか、それは嬉しいな」  一瞬だけ、時が止まった。  だがその一瞬が過ぎ去った瞬間、奇妙なスライムの身体は引き千切られていた。 「アッ?」  何が起きたかわからない顔をする。  黒い何かは、そんな顔を見て嬉々としながら顔を綻ばせた。 「まずは前菜だ」  マオ達がどうにもできなかったモンスター。  それを一瞬にしてバラバラにした悪魔の王は、高笑いを上げる。  だからこそ、ルルクは本当に動けなくなった。  身体の芯から震え上がるような恐怖は、ルルクの中にある勇気を根こそぎ奪い去る。  それはあまりにも惨めで、情けない姿だった。 「そうだな、次はお前だ」  悪魔の王は、ゆっくりとマオへ近づいていく。それを見たルルクは、声を放とうとした。だが、あまりの怖さに口が動かない。  ルルクは懸命に叫ぶ――やめてくれ、と。しかし、その声なき声は届かない。 「いただきまーす!」  弱りきり、立ち上がることができないマオ。黒い何かはそんなマオに突撃した。  そこにはマオの姿はない。あるのは、抉り取られた石の床だけだ。 「うわぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁっっ」  ルルクは叫んだ。悲しさのあまりに、ただただ叫んだ。  だからだろうか。ルルクの中で一つの感情が生まれる。それは勇気でも悲しみでも、恐怖でもない。
/19ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加