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「そうか、それは嬉しいな」
一瞬だけ、時が止まった。
だがその一瞬が過ぎ去った瞬間、奇妙なスライムの身体は引き千切られていた。
「アッ?」
何が起きたかわからない顔をする。
黒い何かは、そんな顔を見て嬉々としながら顔を綻ばせた。
「まずは前菜だ」
マオ達がどうにもできなかったモンスター。
それを一瞬にしてバラバラにした悪魔の王は、高笑いを上げる。
だからこそ、ルルクは本当に動けなくなった。
身体の芯から震え上がるような恐怖は、ルルクの中にある勇気を根こそぎ奪い去る。
それはあまりにも惨めで、情けない姿だった。
「そうだな、次はお前だ」
悪魔の王は、ゆっくりとマオへ近づいていく。それを見たルルクは、声を放とうとした。だが、あまりの怖さに口が動かない。
ルルクは懸命に叫ぶ――やめてくれ、と。しかし、その声なき声は届かない。
「いただきまーす!」
弱りきり、立ち上がることができないマオ。黒い何かはそんなマオに突撃した。
そこにはマオの姿はない。あるのは、抉り取られた石の床だけだ。
「うわぁあぁああぁぁぁあああぁぁぁぁぁっっ」
ルルクは叫んだ。悲しさのあまりに、ただただ叫んだ。
だからだろうか。ルルクの中で一つの感情が生まれる。それは勇気でも悲しみでも、恐怖でもない。
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