5月

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 このワイドショーのチャンネルを変えたのは、さっきまで、スマホを片手に休憩室の隅に座っていた雅ゆうきだった。先輩たちのワイドショーニュースに、食いつくどころか、バッサリと斬りつけるところは、新人と言うよりも新人類だ。それに、雅の透き通った声はいつ聞いても、スカっとする。~まずい、雅と目が合ってしまった。不覚にもドキドキしている。  雅ゆうきは、4月から入った新人だ。新人は、全部で4人入った。雅以外の3人は、東京に初めて上京した地方の子たちで、言われたことは何でも吸収する素直さがある。けれども、雅は、こんな感じで話すものだから、ほかの新人とは少し違う空気感を持っている。私はというと、不思議とこの空気感を心地よく感じている。だから、いつも雅の一挙一動を目で追ってしまう。 「はい、そこまでね。雅の言うことも一理あると思うよ。噂話はほどほどにしよう」 一条春子は、一応、このフロアーの主任をまかされている。その手前、こんな中立的なことを言わなければいけない。~不覚にもドキドキしている本心をおさえ込むために、不自然さがないように。 「そろそろ、午後の検査の準備しなきゃね。先に出てるね」  春子は、飲み終わったコーヒーカップを洗い終えて、休憩室の出口に向かった。 「春子主任、私にもその検査の準備教えてください。」  背中越しに、雅の声がした。~せっかく、雅から距離を置こうとしたのに。空気読めよ、雅。 「春子主任、待ってください」     
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