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柊平によると、彼女はリイナを虐待していた。そして、それを彼が指摘すると、美子は一瞬にして鬼の形相に様変わり。ゴルフクラブを持ち出し、暴れ出した。今や彼女の暴力は恒常化しているという。私には到底、信じられないことだった。すると、柊平はシャツをめくって自身の腹を見せる。そこには切り傷、赤や青の痣が無数にあった。あまりに生々しく、痛々しくて、思わず、目を背ける。
「……もう限界だ。俺はあいつをこの世界から抹殺したい」
「なんてこと言うの。リイナちゃんはそんなこと望んでいない。どんなに虐待されてもパパに黙っていたのは、ママが大好きだからでしょう」
「しかし、母親が犯罪者と知ったら?」
「犯罪者……? ごめんなさい、よくわからない。どういうことなの」
「例の放火犯、あいつらしいんだ」
「……例のって、『昼下がりの放火犯』か?」隆史が前のめりになる。
「本人は否定してるけど、あいつのスマホには、犯人しか撮ることができない、点火の瞬間が映った写真がコレクションされていた」
「ああ……」前に、共有アプリに火事の写真が一枚、紛れていたことを思い出す。そして、先日、火事の炎を見て、恍惚とした笑みを浮かべていたことも――。
柊平は彼女が犯人だと警察に知られる前に、彼女を殺して全てを封印したいと考えていた。しかし、私は逡巡する。いくら今の関係は最悪だとしても、元は二十年来の親友である。簡単に殺す決断などできない。できるわけがない。
すると、隆史が口を開いた。「黙ってたけど、職場に怪文書をバラ撒かれた」
この他、イタズラ電話や大量のピザの注文など、彼から別れ話を切り出され、プライドを傷つけられた美子は、隆史にも嫌がらせを繰り返していた。
「上も最初は被害者だって同情してくれたが、今は自己責任だってさ。昇進はもう見込めないし、リストラとなると、おそらく俺は一番の候補にあがるだろう」
「ごめんなさい。私、何も知らなくて」
「俺のことは構わない。所詮、自業自得だから。ただ、彼女がママやお腹の子に危害を加えないか心配で……」
「危害?」「ママ?」私と柊平は別の観点で、同じように眉をひそめた。
「ママとお腹の子を諸共、殺そうというメッセージがしょっちゅう来てる」
「殺す!?」私は声にもならない悲鳴も上げる。
「やりかねないな。自分の思い通りにならないと、気が済まない奴だから」
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