二十年後――月(わたし)と太陽(カノジョ)

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 隆史は常にメリット・デメリットを念頭に置いて、行動する外商マン。年上の私なんかと結婚したのも同じ職場で仕事に理解があり、うるさいことを言わないから。また、彼は浪費家で、いや、顧客との付き合いもあったのだろう。交際中から万年金欠で、借金さえ抱えていた。だから、いつも私がデート代を出し、結婚後も、この家の頭金や高額な不妊治療費は私が出した。さらに、うちの両親がすでに亡くなっていて、煩わしい親戚づきあいがないこと、その反対に交遊関係が広いミレイという親友がいること。実際、ミレイには多くの客を紹介してもらい、逆に隆史がミレイを使いたがっていた宣伝部との橋渡しをするなど、今でも彼は彼女をビジネスツールとして大切にしている。そう、子供が出来なくて、夫が離婚しないのは愛や優しさからだけじゃない。離婚によって太客のミレイと切れてしまうこと、この家は共同名義な上、欠陥住宅で売却することさえ叶わない。下手な借金を背負いたくないという計算から。しかし、死別だと、ミレイとの良好な関係は持続できる。彼に多くのお金を遺せば、殺してくれるかもしれない。しかし、私の貯金など今や微々たるもの。生命保険も退職して専業主婦になったのを機に、死亡保険金が安いものに入り直した。今の段階で、死亡保険金を増額したり、新しい生命保険に加入したりすれば、夫に疑いが掛かるのは目に見えている。例の後妻スレッドも、事件直前に後妻が自分を受取人した高額の生命保険に夫を加入させていて、このことが殺人疑惑をより深めていた。  結局、出かける準備をする時間にまで答えが出ず、電車を乗り継いで白金へ。電車の中でもスマホとにらめっこし、いい方法がないかと考える。ところが、そのせいで、一駅、乗り過ごしてしまう。電車は使わず、徒歩で行くことにした。ミレイのマンションへの近道になりそうな路地裏を選ぶ。しかし、そこは白い煙と赤い消防車で騒然としていた。野次馬たちの話によると、角の空き家が燃えているらしい。例の昼下りの放火犯の仕業だ。白黒のパトカーも行き交っている。
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