二十年後――月(わたし)と太陽(カノジョ)

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 私はリイナを本屋のキッズコーナーで遊ばせながら、火災鑑定の本を読み漁った。それによると、火事は年間5万件超え。うち1万件が放火で、その3割が保険金目的で自分の家に火をつけたのだという。警察は火災の原因が失火で、死傷者がいない場合はあまり捜査しない故、実際の数はもっと多い。最近では警察の杜撰な体制に漬け込んだ放火の増加を受けて、保険会社が火災鑑定人などを雇って真実を明らかにし、保険金の支払いを拒否する事例もあるという。支払い拒否!? それは困る。今回、私が計画するのは「一人死亡の、失火による火事」だ。警察もそれなりに捜査するだろうし、保険会社も私の生命保険と家の火災保険で、生保と損保の2社の調査が入る。ここは慎重に、計画を立てなければいけない。今週のミレイは珍しく教室以外の仕事が入っておらず、私は次の日から仕事を休んで火災のトリックを考えることにした。  夫が出勤した後、我が家のリビングはちょっとした理科の実験室と化した。「ミレイ」と刺繍されたエプロンを着けた私は、プリザーブドフラワーの加工液、エッセンシャルオイル、グルーガンの樹脂を少量ずつ小皿に取って燃焼させ、引火温度を調べていく。これらは種類によって引火点が異なっていた。しかし、引火点がいくら低くても、自然発火することはない。但し、キャンドルなどの火種と組み合わせれば、火事を起こすことは容易い。しかし、私を死なせ、家を全焼させるほどの火の勢いを出すまでは至難の業である。窓際に火種を置き、カーテンを使って一気に燃焼させるか。ダメだ。うちのカーテンは防炎加工がされている。たとえカーテンを変えたとしても、窓から火が漏れる可能性がある。我が家は公園の近くにあり、昼下がり、公園に遊びに来る人が火事に気づいて119番通報をするかもしれない。しかし、夜の犯行になると、生き残った隆史が真っ先に疑われる。だったら、夫が家を開ける日を狙えばどうだろう。確か、彼は来月下旬、お得意様と湯河原へゴルフ旅行に行くことになっていた。そうだ、実行日はこの日の夜にしよう。私が一人で眠る間に火事が発生したという設定で……。
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