二十年後――月(わたし)と太陽(カノジョ)

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 さぁ、次は具体的な手順だ。私は階段を上がり、火元となる寝室へ。壁沿いに置かれたサイドボードの上にアロマポット、そのすぐ傍にアルコール成分の加工液をたっぷりと染み込ませたプリザーブドフラワーを置いた。そして、キャンドルに火をつけ、アロマポットの下部に入れる。上皿の水に垂らすエッセンシャルオイルには引火点が低い「フランキンセンス」を用いた。どれだけの時間でアロマポットの火がプリザーブドフラワーに引火するか、調べるのだ。私はベッドに体育座りして、じっと見守る。5分、10分、25分……、キャンドルはまだ燃えている。私が眠りに落ちた後、夫が逃げる時間は十分ある。そうだ、実行日は新月の夜にしよう。この辺は街灯も少ないので、誰にも見つからず逃げられる。  1時間後、上皿は空焚き状態に。「フランキンセンス」に引火すると思ったら、すでにその成分は水分と共に蒸発してしまっていた。……実験失敗か。私が落胆していると、キャンドルを包んでいたアルミ紙が燃え始めて、忽ち炎を上げる。そして、ゆっくりだけれど、プリザーブドフラワーに引火していく。 「いい感じ……。想定外の展開だけど、結果オーライってことで」  ところが、「火事です、火事です」と火災報知器が煙に反応してしまう。けたたましいアナウンスと共に、スプリンクラーからの放水も始まった。おかげで、せっかくの炎も消えてしまう。パソコンで調べると、最近の火災報知器は性能がすこぶる良かった。条例では原則、寝室と寝室のある階段に設置が義務付けられていて、この家も例に漏れず。リビングには設置されていなかった。 「だったら、リビングのソファで眠ってしまったことにしよう」  計画を見直す必要性を感じた私は寝室に戻り、焼け跡を丁寧に検証していく。火は何とかついてくれたものの、その勢いは明らかに弱かった。確実に着火させ、炎上させるためには加工液を染み込ませた花ではなく、液自体に引火させた方がいいだろう。火の勢いを強くするにはやはり石油ストーブを用いた方が……。 「一体、どうしたんだ? ずぶ濡れじゃないか」 帰宅した隆史が寝室に入ってくる。私は咄嗟に取り繕って、 「アロマポットを空焚きしちゃって」 「火事ってこと? ママ、大丈夫? 怪我は? やけどしてない?」 「平気よ。心配かけてごめんなさい」 隆史はクローゼットからタオルを出して、私の濡れた髪の毛を拭いてくれる。
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