夢見た、あの頃

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 東京に出てきてから先を思い描いていなかった。せいぜい、人気ファッション誌「JJ」に出てくるようなキャンパスライフを送りたいな、程度の薄っぺらい夢。大学の学費は奨学金で何とかなったけれど、生活費の仕送りはゼロ。母と同じスーパーのバイトに明け暮れ、未来を描くどころか、今を維持するので精いっぱい。大学とバイト先、アパートの三角形をぐるぐる回るだけの日常。オシャレして、コンパして、彼氏とクリスマスイブを過ごすなんて夢のまた夢……。 「これじゃ、田舎の方がマシじゃないの?」  娘の生活をチェックするため、夜行バスで上京したママに突っ込まれる。だけど、スーパーと言っても私のバイト先は「紀伊国屋」みたいな高級店だし、アパートと言っても、その部屋で見るテレビは田舎よりチャンネルの数が多かった。そして、何よりも、東京の街には多くの色が溢れていた。その中を歩くだけで、私の心は躍った。バイト先で知り合ったコは恨めしそうに街の喧騒を眺めて、「死にたくなる」と嘆いたけれど、私にはその気持ちがイッコもわからなかった。なぜなら、それはきっと――
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