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但し、親友のミレイには感謝の気持ちを込めて、何か遺したいと思った。しかし、完璧な彼女は何もかも持っている。だから、彼女が苦手なSNSのマニュアルを作ることにした。私が所持するスマホはアンドロイドで、彼女のものはiPhoneだから、わざわざ同じ機種に表参道のアップルストアで買い替える。アプリもすべて彼女のものを揃える。
その帰り、老舗のとんかつ屋「まい泉」や長い行列を作るスイーツ店「幸せのパンケーキ」を通り過ぎ、学生時代に通った懐かしのカフェへ。まだ店は同じ所にあり、ゴルゴンゾーラのチーズケーキもメニューにあった。私はそれを舐めながら、鏡に映った自分を見る。二十年前と同じ冴えない猫背で、早く死んでしまいたくなる。
と、ミレイが隣に座ってきた。私の作ったマニュアルを手にスマホを操作する。
「ヨシコ。この画像、キラキラに加工できないんだけど。てか、フォトショも使いこなせないアタシをバカにしてるでしょう」
「バカになんてする訳ないでしょう。あなたは私の親友なんだから」
「親友じゃないでしょ。私はニコイチ。二人で一人なんだから」
「だね――!」私と彼女は軽くハイタッチして、笑みを交わす。
ここまでが私たちの会話のルーティンだった。ハイタッチしたら鏡の中のミレイはすぐに消えてしまったけれど、今も昔も、そして、私がいなくなった未来も、私たちの関係性はいつまでも続く気がして、頬を緩ませる。
この日、昼下がりの放火事件で、初めての死者が出た。
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