わたしの太陽

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 娘の生活をチェックするため、夜行バスで上京したママに突っ込まれる。だけど、スーパーと言っても私のバイト先は「紀伊国屋」みたいな高級店だし、アパートと言っても、その部屋で見るテレビは田舎よりチャンネルの数が多かった。そして、何よりも、東京の街には多くの色が溢れていた。その中を歩くだけで、私の心は躍った。バイト先で知り合ったコは恨めしそうに街の喧騒を眺めて、「死にたくなる」と嘆いたけれど、私にはその気持ちがイッコもわからなかった。なぜなら、それはきっと―― 「ヨシコ。この字、読めないんだけど」  彼女がいたから。彼女は私と同じ大学の学生。ミレイという名前で「camcam」のモデルを務めながら、テニスサークルやらミスコンやら、キラキラしたキャンパスライフを謳歌していた。しかし、試験前には必ず大学の図書館やら学食やらで私の隣に座り、私のノートを片手に勉強する。  今日は、彼女の撮影現場である表参道に新しくできたカフェに来ていた。人気の店で雨の中、長蛇の列が出来ていたけれど、モデルの彼女が顔をきかせ、するっと入店。名物のゴルゴンゾーラのチーズケーキを、猫背の私は舐めながら、 「ああ、アンチコモンズの悲劇、だね。確か社会学って1年の時は午後イチの講義だったから。寝ぼけて間違っちゃったのかな」 「寝ぼけないでくれる? たかがパンキョー、たかが4単位って思ってるでしょう。その一科目が命取りだなんだから」 「命取りって、大袈裟だなぁ」 「全然、大袈裟じゃない。折角JALの内定をもらったのに留年だなんて、バカみたいじゃない。てか、ヨシコ、4年生にもなって、パンキョーをやってるアタシのことバカにしてるでしょ」 「バカになんてする訳ないでしょう。あなたは私の、あっ――」 「ども」ガラス張りの入り口から、白い歯を見せて、彼がやってきた。  ミレイは私の視線の方に振り返って、 「柊平、来てくれたの?」 「来てくれたのって、誰だよ。雨降って帰れな~いって、泣き顔の絵文字入りでメールを送ってきたのは」  と、彼は当たり前のように、彼女の隣に座る。そう、彼女の隣にもいつもあの人がいた――。
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