夢見た、あの頃

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夢見た、あの頃

 普通に就職して働いて、普通に結婚して出産して、普通に生きて死んでゆく。誰もが辿るであろう女の人生。子供の頃は当たり前のこと過ぎて、つまらないと思っていた。アイドル、スチュワーデス(あ、今はCAか)、宇宙飛行士……。夢を見るのは簡単。アイドルに必要な華がゼロ~でも、スチュワーデスに必要な身長がイマイチ伸びなくても、宇宙飛行士に必要な数学で赤点を取っても、そして、クラス中の女子からシカトされたり、パパがリストラに遭って私立への進学を諦めざる得なくなったり、自己防衛のため思考を停止させるほどの残酷な現実に直面しても、頭の中だけはバラ色の未来が広がる少女時代。何にでもなれた。けれど、そんな妄想にふける私を、ママは憎たらしい口ぶりで嘲笑った。 「普通に生きるほど、難しいものはないのよ」  パパ任せの人生を送ってきたママにとってはそうなんだろう。専業主婦の負け惜しみだと思った。ううん。パパが自殺してスーパーのパートに出なくちゃいけなくなって、機嫌が悪いだけ。ママのような人生を送りたくないと、十八歳の時、この街を出た。「昔は良かった」と親父たちが昼間から店先で愚痴を零す、砂まじりの商店街を通り抜け、駅で青春18切符を買う。東京には未来の可能性が溢れている。行けば、普通じゃない何かがある、何者かになれると信じていた。しかし――
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