プロローグ

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「うっし、じゃあ行こう!」  香織はカバンから缶酎ハイを取り出し、それを一口飲んでから、隣の女子生徒と肩を組み、またその女子生徒も隣と肩を組み、自然な流れで私までもその肩組みに参加させられた。  7人で堂々と道の真ん中を歩き、前から人が来た時は、綺麗に横になって、それを避ける。目的地のバスケットコートに着くまで、香織はずっと大声で安室ちゃんの歌を唄っていた。 「顧問と揉めてさ、昨日バスケ部辞めたんだ。アイツらも全員」  高いフェンスに囲まれたバスケットコートの片隅で、香織は友達一人一人の長所や短所を、左手に2本目の缶酎ハイ、右手にジャムパンを持って楽しそうに説明していた。 が、内容はほとんど入って来ず、ただ、やたらにご機嫌そうな香織の横顔を見て、さぞかしイイ人生を送って来たんだろうな、とその全てを ――細く長い首から見える清廉な白い肌。ショートカットがよく似合う小顔。健康的な美しい歯並び。男のようにサバサバした喋り口調―― 羨望(せんぼう)した。  遊び疲れた帰り際、さっき男性から受け取った18万円をなくしたと言って、全員から呆れられる香織だったが、家に戻ってからカバンを見てみると、教科書を覆うように一万円札が散乱しており、雑に千切られたノートの切れ端には、太い字でこう書かれていた。
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