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お父さんから聞いたのは、母は僕を産んですぐに家を出て行ったということ。原因は、「お父さんが悪いことをした」からだそうだ。産みの母が誰なのか、僕は知らない。
だから、ずっと一緒に住んでいる叔母のオリちゃんは、母親のような存在であり、歳の離れた姉のような存在でもある。
おばさん、と呼ばれるのがイヤで、香織ちゃんというのも見下されている感じがしてイヤなのだそう。だから僕は、オリちゃんをオリちゃんと呼ぶ。
明るいオリちゃんと、冷静なお父さん。3人での暮らしはとても楽しかった。日常が日々、温かった。
――ちょっと行ってくるー。
――はーい。
それが父との最後の会話だった。玄関とリビング、壁を隔てて、声だけのやりとり。僕はソファに寝転がりながら、父はおそろく、靴ベラをフックにかけながら。
父はその後、祖父を乗せた車でホームセンターに買い物へ行く途中、交通事故に巻き込まれて他界した。
祖父のお葬式は、祖母の実家である遠い街で行われ、父のお葬式も日程が同じだった為、僕はオリちゃんと父のお葬式に出席した。
咲希と出会ったのはその時だった。
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