平穏の崩壊

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★  とある住宅街、アパートの一室。リビングに置かれたテレビから、室内に満ちる暖かな平和とは対象的な内容のニュースが流れる。  ニュースキャスターが無感情に、同一犯によると見られる連続殺人事件の、4人目の被害者と思われる遺体が発見されたことを伝えた。 「ねえ弘樹テレビ見てよ、また死体が見つかったって」  夕食の支度をしながらワイドショーを見ていた美穂は、浴室の掃除を終えて出てきた男に声を掛ける。 「へえ、そうなの?行方不明の報道から発見まで早かったね。日本のおまわりさんは優秀だなあ」 「もう、他人事みたいに言って!」  少し怒った様子で美穂は言う。こういう場でつい茶化すような事を言ってしまうのが弘樹の悪い癖だ。その言動は「大切な彼女にはいつだって笑っていて欲しい」という思いから来ているのだが、それはここでは口に出さず、素直に謝る。これがデリケートな話題であることは確かなのだから。 「だけど大丈夫、君のことは僕が絶対に守ってみせるから」 ☆  S市連続殺人事件。僕達が住むここS市で起きた、若い女性を狙った連続殺人事件だ。行方不明になった女性がその数日後、変わり果てた姿で発見される。  その遺体の状態から一連の殺人は同一人物によるものであるとされ、20代前半の女性を無差別に襲っていると見られるとニュースキャスターは伝える。  次は自分が襲われるのではないかと、彼女はこの事件にひどく怯えている。  何よりも大切な人。彼女のことは、きっと僕が守る。 ★ 「最近、仕事場で同じ男の人を何度も見かけるの」  夕食を食べながらバラエティ番組を見ている時、沈んだ表情で美穂が切り出した。  ご近所さんとよく顔を合わせるの、といった世間話の類でない事は、彼女の様子を見れば明らかだ。  テレビ画面の中では、若手の芸人コンビが漫才を披露している。男性が「いやストーカーやないかい!」と相方の頭を軽くはたき、会場にどっと笑いが起こる。  ストーカー・・・いや、このタイミングでその予測は楽観的と言わざるを得ない。そうなるとやはり・・・。弘樹は慎重に言葉を選び、尋ねる。 「それは・・・目をつけられてるかもしれない、ってこと?」  美穂はためらいがちに、しかしはっきりとうなずく。
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