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「毎回帰る時に後をつけられてるみたい。毎回変装しているけど、背格好でわかる。いつも同じ人が・・・」
なんということだ。魔の手は彼女のすぐ傍まで迫ってきているのだ。弘樹は愕然とする。
美穂はあくまでなんでもない事のように話しているが、その声は微かに震えている。自分に心配をかけまいとしてくれているのだと気付かないほど、弘樹は鈍感な人間ではなかった。
「帰り道でなんとか巻いたから、家までは知られてないと思う。でも」
このままでは見つかってしまうのも、時間の問題だと思う。消え入りそうな声で美穂は言う。
たった1人で何日も前から、何回もそんなことを?どれほど怖かっただろう。どれほど心細かっただろう。
それなのに僕に心配をかけまいとして。
美穂に感じる愛しさと男に対する憎悪で、弘樹の頭ははち切れんばかりだった。
もうこれ以上美穂にそんな怖い思いをさせてはいけない。この不安な日々を終わらせなければ。いつどんな時でも彼女を守ってやりたい。しかし、互いに仕事には行かなければならない以上、四六時中一緒にいるというのは現実的ではない。たとえどちらかが休暇を取ったとしても数日が限度だろうし、根本的な解決にはならない。
早急に手を打たなければ・・・彼女を、守るために。
☆
僕は犯人に心あたりがある。この状況から見て、次に狙われるのは間違いなく彼女だ。 だが警察を頼るには、彼女が狙われる理由を話す必要がある。それは避けなければならない。
いまだ特定されない、被害女性たちの共通点。彼女らがしたことは、法律では裁けない。しかしマスコミや世間の目は、彼女をどう見るか。1枚の写真が、瞬く間に世界中に拡散される。今はそういう時代なのだ。それではたとえ犯人が逮捕されたとしても、彼女がこの先平穏な人生を歩いていくことは難しくなるだろう。
・・・いや、そもそも。警察に捕まれば、きっと犯人はその動機について語るだろう。
いずれにしても、警察にあいつを捕まえさせるわけにはいかないではないか。あいつが捕まる前に、彼女の過去が白日の下に晒される前に、僕が手を下すしかない。そう決断を下すのに、あまり時間は掛からなかった。
彼女を守るためなら、僕は何だってやってやる。
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