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「なんだ・・・出かけてるの」
最近、恋人の外出が増えた。いつも休日は寝ているばかりだったのに。どういう心境の変化なのだろう。彼女は思う。
「物騒だからできるだけ家にいてって言ってるのに」
その時インターホンが鳴り、体が硬直する。
「こんにちはー、郵便ですー」
続いて聞こえた言葉に、肩の力が抜ける。そういえば彼はよく通販を利用する。私は少し過敏になりすぎているのかもしれない、と薄く笑う。
渡された用紙にサインを書いて配達員に返し、荷物を受け取るが、やけに重い。一体何が入っているのだろう?こんなに重い荷物を注文したのなら、受け取りの時に家に居てくれればいいのに。最近、彼はいつもこの時間には外出している。
彼女は考えるうち、ある仮説に辿り着く。
・・・いつも、この時間には?
近所で続く殺人事件。あの犯人は・・・
まさか。まさか。まさか。
彼女の予想は当たっている。しかしもはや、全てが手遅れだった。
☆
もしも自分の恋人が連続殺人事件の犯人であると知っていたら。
ごく一般的に考えれば、警察に通報し、罪を償ったうえで更正するよう促すのが人として正しい道だろう。
しかし僕は知っている。大切な人を守るためならば、たとえその道を踏み外すことになるとわかっていても突き進む者がいることを。たとえ恋人が過去に何をしていても、愛ゆえにそれを受け入れる者がいることを。
僕はとんでもない思い違いをしていたのかもしれない。疑うべきは1人だと思い込んでいた。殺人者は、2人いた。
よく部屋を見渡すと、歯ブラシも2本、食器もペアのものが揃えられている。
「同棲してるのか?」
・・・待て、同棲?
僕はあいつの不在は確認したが、恋人のほうは・・・
背後でミシリ、と床が軋む音が聞こえ、振り返るより先に頭に強い衝撃を感じた。
なぜ気付かなかったのだろう。強い後悔とともに、僕の意識は暗転した。
□
なぜ気が付かなかったのだろう。彼はいつも、通販をするときは時間指定を利用していた。
荷物が届くとわかっている時間に、わざわざ外出などするはずがない。私はとんでもない勘違いをしていた。
・・・目の前の男は、配達員ではない。
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