星影

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星影

 暗くなった空の向こう側にわずかに見えていたオレンジが消えると、深みを増したそれに宵の明星が顔を出していることに気がつく。  宇宙から見た地球は青く輝いているというけれど、私の目に映る宇宙はこんなにもめまぐるしく表情を変えてくれる。 「夕やけって聞いて、何を思い浮かべますか?」  隣からさっきと同じ優しい声が聞こえる。もう見えなくなってしまった夕やけの方向から目を離さないまま、そんな言葉を口にしている。  風にのった言葉をゆっくりと受け取って、思いを巡らせる。  水平線に近づいていく綺麗な光や、こちらに向かって真っすぐに放たれるまぶしいオレンジ色。どこからか流れてくる晩御飯のにおいに、大好きな家族が待つ食卓。時間を知らせるチャイムの音と、夜に残した宿題のこと。  また、ある日は名残惜しい旅行の帰り道で、またねと別れる大切な笑顔。大きくなるにつれてその時間に訪れる出来事はどんどん変わっていっているけれど、思い出すとほんの少しだけぎゅっと胸が苦しくなる、愛しい時間。  誰もが当たり前に、その夕やけの先を思い浮かべる。夜が深くなるまでの数時間だけではなくて、ずっとずっとその先も。いつだって、夜のその先にまた新しい何かが続くことを信じて疑わないって、そう思っていた。  それが、そうじゃない人もいるってわかったんだ。夕やけのあとに来る、夜を迎えることがこわい人もいるということを。私にとっての愛しい時間が、苦しい時間になる人たち。暗くて長い夜が、ずっと続くように感じてしまう人がいる。シュガーさんが言っていたように、夜が、死を象徴することがあるように。
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