玻璃

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 ここには誰も来ることがない。ついに一か月を切った文化祭の準備に数多くの文化部や生徒会がせわしなく動き回っているなかで、喧噪を避けるようにあの非常階段に座り込んでいる人がいるなんて、誰も思わないだろう。  私たち写真部も例外ではなく、先輩たちとの最後の作品展示に向けて今日も活動時間ギリギリまで準備を進めていたのだが、昇降口に着いたときに忘れ物をしたことに気づいて戻ると、部室から翠と紫音が笑いあっている声が聞こえてきたのだ。  足音を立てないようにそっと離れた私は、2人が帰るまで時間をつぶそうと思って、誰からも見つかることのないここに隠れたのだった。  さっきまで聞こえていたにぎやかな音たちも、別の世界に飲み込まれてしまったかのように消えつつある。一日のなかでかなりの時間を過ごす学校は、私の知らないところで毎日たくさんのドラマが生まれているのだろう。背中越しにおはようと声をかける緊張や、購買でのパン争奪戦だってきっとそれのひとつ。文化祭の準備期間に入れば、なおさら今まで以上の何かが動きだしてもおかしくはない。現に、さっき昇降口から戻ってくる途中では中庭のベンチでぎこちなく話をしている男女を見かけた。きっと、あれもそういうことなのだ。
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