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ふっと口元が緩んで澄んだ目が私を見る。黒の中にきらめく光の粒は、夜空の星たちと同じようにはるか遠い昔から私をそっと見守っているようだった。
「俺、夕やけは悲しいものだと思っていました」
前に聞いた親友との話を覚えている。きっと毎日のように遊んだ楽しい思い出が詰まっていた夕やけの時間が、夜をこわがる親友を見て少しずつ変わっていってしまった。そのまま時が止まってしまったような、深い悲しみ。
「でも、カロンで夕やけを見たあの日から、少しずつですが間違いなく何かが変わり始めたんです」
涙にくれていた少年が見上げた視線の先には、目が眩むほどの美しい夕やけ。時が動き出すような、胸を締め付ける感動。一緒に過ごした時間は、今でも鮮明に思い出せるほどの大切なものだったと気づかせてくれた光。
「…そうですね、きっと俺にとっても愛しい希望になったんだと思います。あの日、あの瞬間に、俺の中でも夕やけは悲しいだけのものじゃなくなりましたから」
ゆっくりと進んでいた歩みを止めた彼の声が、頭の上から降ってくる。
「あの屋上で見た夕やけは、間違いなく愛しいものでした」
夏の終わりの風に舞った言葉は、胸の中に溶けていく。心地よくやわらかい、たしかな温度を持った言葉だった。
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