216人が本棚に入れています
本棚に追加
めずらしく明るいうちに学校を後にする。一人になり坂を下ってゆくと、大きな木が見えてきた。カロン、寄ってみようかな、開いているといいなと思いながら道を進む。看板はopenになっていた。店内にベルが響き渡る。
「シュガーさん、こんにちは」
「あら、久しぶりね」
店内には常連のおじいさんが1人、窓際の席でうとうとしながら壁にもたれかかっていた。シュガーさんはいつも通り微笑みながら、カウンターへ座るよう手招きをしている。
「明後日、体験入部をやってみることになったんです」
腰を下ろし、ここ数日のことを話す。シュガーさんは、ソーダ水を出してくれた。私が高校生だということもあり、「毎回珈琲を頼むには、まだ早すぎる年齢よ」と言って格安で提供してくれる裏メニュー。ほのかに感じられる爽やかな香りは、季節ごとの果物を使って風味付けをしているらしい。その気遣いによって、この年齢にしてはなかなかの頻度で通うことができているのだ。ちなみに、大好きなカフェラテのスペシャルは、自分へのご褒美として2週間に1度までと決めている。そんな客にも関わらず、また来てくれるのを楽しみにしていると言ってくれるシュガーさんは、女神様に見えてくる。
「とても素敵なルートね。私も参加したいくらいよ」
さすがに高校生にはまぎれられないわねえ、なんて呟きながらシュガーさんがほめてくれた。ソーダ水の氷がカランと音を立てる。
「駅の近くに、アンティークの雑貨屋さんがあるの。お店には異国のランプや置物がたくさん飾られていて、幻想的でとても美しいわ。星見通りから少し入ったところにあるんだけど」
「あ、駅からは星見通りを歩いて海へ行く予定なんです。見つけたいなあ」
「強く願えば、叶うこともあるんじゃないかしら」
続けて、秘密を教えるときのように小声で「売り物ではない素敵なランプもたくさんあるらしいわ」と話してくれたのだった。
最初のコメントを投稿しよう!