プロローグ

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 思わず窓に手をつけると、それは触れた感触もなくするりと外に抜けた。ガラスの向こうに続く自分の手を、首を傾げて見つめる。  グラウンドでは、スーツの男が野球部員たちに囲まれていた。その光景は、まるで昔のままだ。  歓声が上がり、笑い声が響いた。 そうか……先輩はもう、大人になったのか……  自分がいつから、どのくらい、この教室(へや)にいるのかもわからない。  制服の胸に花をつけた先輩をここから見たのは、いつのことだっただろうか。あの日も、先輩はあの場所から、長い間ここを見上げていたっけ……  あれから、どのくらいの時が流れたのだろう。  窓の外では、もう何度目に見るのかも分からなくなったソメイヨシノが、春の風にその花弁を散らしていた。
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