2020年4月

2/7
前へ
/83ページ
次へ
 事件の後、学校の人気と偏差値が落ちたことは事実だ。  自分がしでかしたことの波紋のひとつを目の当たりにして、胸が痛む。  内山はグラウンドの真ん中をゆっくりと進んだ。かつて3年間踏みしめたグラウンドの土は、スーツに革靴で歩くと全く別のもののようだ。  グラウンドの中ほどで、振り返って校舎を仰ぎ見る。コの字を倒したような横長の長方形。あのころ、ここから左端の最上階を何度こうして見上げただろう。  こうして見ると、あの教室(へや)も、あのころと何も変わっていないのに。  あのころ。  好きなやつがいた。  初恋なんかじゃなかったのに、どうしていいかわからず、泣かせて、傷つけて、死ぬほど傷つけて……  ただ、好きだったのにーー  当時の思いがあふれ出し、ぎゅっと胸が締めつけられた。 「内山ぁ――!」  突然懐かしい声に呼ばれて、彼は一瞬、自分がまだユニフォームを着てグラウンドに立っているような錯覚に陥った。  声は野球部の方からだ。  左を見ると、散らばった野球部員たちの向こうに、青いジャージ姿のやや小柄な男が手を振っている。  野球部顧問の(すが)だった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加