2020年4月

5/7
前へ
/83ページ
次へ
 菅は当時、野球部の副キャプテンだった。野球が特にうまかったわけではないが、面倒見がよく、部員のことをよく見ていて後輩にも信頼されていた。  思えば、ワンマンでときに強引な内山をフォローしてくれる菅がいたからこそ、あのころの野球部はうまくいっていたのかもしれない。  顧問としても部員に慕われているらしいことが、少し見ただけでも感じられた。  菅と並んでグラウンドを歩くのは3年の夏の引退以来だが、まるで時間が巻き戻ったかのような妙な気分だった。 「始業式の朝から練習してんだな」 「ああ、今年は、俺らのころと違って3年が多くてさ。2年にもよくできるやつが何人かいて、レギュラー争いも結構熾烈なんだよ。つっても甲子園目指せるようなチームじゃないけど、いけるとこまでいこうってがんばってるよ」  きっと休みもなく練習につき合って大変だろうに、菅は我が子の自慢をするような誇らしい顔つきだった。  内山が、 「ところで、コーチなんて話は全く聞いてないけど?」 と言うと、菅は 「これから鋭意交渉する予定だよ」 と高らかに笑った。  二人が肩を並べて校舎に消えていくまでを、校舎の西端の教室からじっと見つめている人影があった。  内山も菅も、野球部員も、それに気がついた人は誰もいなかった。
/83ページ

最初のコメントを投稿しよう!

101人が本棚に入れています
本棚に追加