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菅は当時、野球部の副キャプテンだった。野球が特にうまかったわけではないが、面倒見がよく、部員のことをよく見ていて後輩にも信頼されていた。
思えば、ワンマンでときに強引な内山をフォローしてくれる菅がいたからこそ、あのころの野球部はうまくいっていたのかもしれない。
顧問としても部員に慕われているらしいことが、少し見ただけでも感じられた。
菅と並んでグラウンドを歩くのは3年の夏の引退以来だが、まるで時間が巻き戻ったかのような妙な気分だった。
「始業式の朝から練習してんだな」
「ああ、今年は、俺らのころと違って3年が多くてさ。2年にもよくできるやつが何人かいて、レギュラー争いも結構熾烈なんだよ。つっても甲子園目指せるようなチームじゃないけど、いけるとこまでいこうってがんばってるよ」
きっと休みもなく練習につき合って大変だろうに、菅は我が子の自慢をするような誇らしい顔つきだった。
内山が、
「ところで、コーチなんて話は全く聞いてないけど?」
と言うと、菅は
「これから鋭意交渉する予定だよ」
と高らかに笑った。
二人が肩を並べて校舎に消えていくまでを、校舎の西端の教室からじっと見つめている人影があった。
内山も菅も、野球部員も、それに気がついた人は誰もいなかった。
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