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プロローグ
土の色が変わってる……
校舎寄りの、野球部のグラウンドの一部だ。花壇の水が染みだしているのだろうか。
もしかしたら、歩いている人からは見えにくいかもしれない。
でも、上からはよく見える。
俺が落ちたところ。
どうしてこんなことになったんだろう……
はじめはよかったのに。
いつも優しくて、楽しかったのに。
大きな身体を揺らして笑う先輩が好きだった。嘘みたいな早さでパンを食べて、指を舐める仕草が好きだった。
階段を駆け上がる足音を、いつも待っていたのに。
あんなことのために、俺に近づいたの……?
つらくて悲しくて。
苦しくて痛くて、怖くて。
恥ずかしくて
消えてしまいたかった……
グラウンドでは、今日も野球部が練習している。
大きな声、バットがボールを打つ音、舞い上がる砂ぼこり。
そこに、先輩はいない。背が高くて、大きな声で、いつでも一番目立っていた先輩は、いない。
先輩はもう野球部にはいないのか。
いや、卒業したんだったかな……
自分はいつからここにいたのか。
どうして?
なんのために?
ふと見下ろすと、広いグラウンドの真ん中に、スーツ姿の男が立っていた。朝日を浴びて、土の上に長い影ができている。彼はまっすぐに、こちらを見上げていた。
「先輩……?」
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