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「ご両親が…呪殺!?」
「父と母は、栃木県の山中で遺体で発見されたわ。二人とも、登山用の装備を身に付けた状態だった。私の両親は、若い頃から山歩きを趣味にしていたの。案の定、二人の死因は、トレッキング中の滑落事故と判断された。遺体確認の際…荷物も服も、確かに本人達の物だと判明したわ。だけど、そんな事は有り得ない。だって、母は当時、持病の喘息が悪化していて、とても山歩きなんて出来る健康状態じゃなかったんだもの。」
「その事を、警察には??」
「勿論、訴えたわ。でも、誰も取り合ってくれなかった。真相を知るのは私だけよ…湯川忠興以外にはね。」
「湯川管理官とは、大学の同期でしたね?」
「恋人だったわ。結婚も視野に入れて付き合っていた。でも、別れたの。」
「何故──と伺っても宜しいですか?」
「ふふ、気になる?大した理由じゃないの。私が我が儘を言って、別れて貰っただけ。」
敢えて明るい口振りで、満智子は言う。
だが、その美貌には直ぐに暗い影が射した。
「…私はどうしても、両親の死の真相を究明したかった。その為には、鈴掛一門の正体を暴かなければならない。彼は、良い理解者だったけれど…だからこそ危険な目に合わせたくなかった。私と関わったら、彼の命も狙われてしまう。呪殺とは、そういうものなんでしょう?」
真摯に見据えた眼差しに、彼女の強い意志が見える。
どんな悪にも屈しない眼だ。
死をも恐れない、『女帝』の眼だ。
彼女の二つ名の謂われは、極めて稀有な、その精神力の強さにあった。
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