[一段目]Adagio(アダージョ) 緩やかに。

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 (あらわ)れたのは、腐肉を纏った不浄霊の大群であった。嘗ては、人の姿をしていたであろうそれ等は、既に正常な意識を手放している。  よろめき、吠えながら歩き回る死霊の群。 激しい腐臭を撒き散らしながら、新鮮な血肉を求めて襲い掛かってくる。  まるで、ホラー映画の一場面を観る様な光景だった。 一斉に武器を閃かせる、金の四天衆。 湧き出る霊群を遥の鏑矢が一閃し──霧散した霊体を、祐介の霊刀・白浪(しらなみ)が薙払う。左の蔵では、一慶が霊剣・黒縄(こくじょう)を振るい、苺は(りん)を放って、暴れ廻る死霊の群れを斬り伏せていた。  ──そうして。激しい闘いの末に、四天衆は、三つの蔵を制圧した。 筆子の《鷹の目》が中を検証し、隠されていた真実が白日の下に(さら)される。膨大な情報量を、瞬く間に解析した六星一座の主任文書番は、この屋敷を、《鈴掛一門》の牙城(がじょう)であると断定した。 「さて。城を棄てた城主は、今ごろ何処に隠れているんだろうね?鬼童の製造工場を、そっくりそのまま残して行くなんて…如何にも作為的じゃないか。」  皮肉に吐き捨てたのは、金の西天である。 撒き散らされた不浄の跡を丁寧に浄めた後──祐介は、怒りを押し殺す様に切り出した。
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