[一段目]Adagio(アダージョ) 緩やかに。

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その、約二十分後──。 門前には、ゼイゼイと息を上げて踞る、深水満智子の姿があった。 両手を膝の上に付き、汗だくで肩を上下させている。その美貌には、百八もの石段を自力で昇り切ったという征服感が滲んでいた。 「…ど、どうよ。昇ってやったわよ!?」  そう言って、不敵に笑って見せる彼女だったが…苛酷な運動に耐えた細い脚は、正直な悲鳴を上げていた。膝頭がカクカクと震えている。  額の汗を拭い、半ばヘロヘロになりながら、満智子は改めて、聳え立つ山門を見上げた。 濃い影を落とす瓦屋根の(ひさし)。 幾重にも重ねた裳階(もこし)の下には、如何なる名工の手から成るのか、見事な唐模様が施されている。 黒く燻んだ二本の門柱は、宛ら、当主を守る仁王像の様だ。重たげな屋根を支えて尚、微動だにせず佇んでいる。 「凄い…これが甲本家なのね。」  満智子は僅かに息を飲む──が。 直ぐに、ピンと背筋を伸ばして荘厳な山門を潜った。
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